〜WORLDNAVIコラム〜

アリババの日本進出 〜 根付くか? 中小企業の国際取引におけるネットの活用

  10月18日、「売りたい・買いたい」と言った引合情報を掲載して、企業同士の出会いの場を提供するeマーケットプレイス、Alibaba.comの日本語版サイトがオープンした。Alibaba.Comは、140万件以上の企業情報が登録され、中小企業向けのB2Bサイトとしては世界最大規模のものとして注目を集めている。同社はソフトバンク社からの投資を受け、CEOのJack Ma氏はアジアや欧米のビジネス紙にも度々取り上げられる等、eマーケットプレイス界での知名度も高い。

 18日にオープンしたAlibabaの日本語サイトは、未だ発展途上のサイトにも見えるのだが、上記の背景や、中国企業が運営するeマーケットプレイスとして、英語版サイトには中国の企業情報が多く掲載されている事を勘案すると、日本国内の中国ブームの中で注目を集める存在である。一昔前に国内外でブームになった電子商取引、B2Bの話題は、ITバブルの崩壊と共に下火になってしまった感があるが、Alibabaは見た限りでは順調に利用者数を伸ばしており、こうした貿易引合情報サイトは、海外の貿易取引の世界では認知・利用が進んでいる。

 大企業の調達においては、ARIBA等の電子調達システムの 利用が有名である。然し、このシステムの導入のためには自社の調達システムをARIBA向けに開発・修正等を行わなければならず、ホスティングサービスを利用しても月々2万ドル掛かるのは、普通の中小/零細企業にとっては敷居が高い。小企業・零細企業にとっては、販路拡大のためにちょっと試しに使ってみる、との雰囲気では無い。
 これらの中小・零細企業にとって、比較的利用の敷居が低いのが、Alibabaの様な引合情報サイトである。誰でも自社の商品を手軽にPRする事が出来て、登録された商品を見て、製造元の会社に直に注文の依頼等を出す事が出来る。
 これらのサイトには、各企業の商品を記載した商品カタログの他に、その時々の「売りたい・買いたい」等の引合情報(Trade Leads)、企業リスト等が掲載されて、中小の製造業・商社などの情報交換の場となっている。この様な「Eマーケットプレイス」は世界中に様々なものが存在し、あるものは「化学品」や「食料品」等の専門分野に特化したり、言語・地域を限定されたもの等もある。運営主体は、Alibabaの様に一民間企業が行っていたり、政府の機関や業界団体が行ったりと様々だ。

 では、日本の企業、特に中小企業の国際取引においてB2Bの利用現状はどうなのだろう。

 Alibabaが日本に進出する事の一つの切っ掛けは、Alibabaのサイト内に日本と取引をしたいユーザーが多いのに、日本人のユーザーが極端に少ないと言う事であったと言われる。2001年7月に、CEOのJack Ma氏が日本で講演した時の話では、当時70万人のユーザーを抱えていたAlibabaのサイト内の日本人ユーザーは2000人程度であったと言う。

 日本国内の他の代表的な引合情報サイトとしては、世界貿易センターの運営するWTC Japanや日本貿易振興会(JETRO)の運営するTTPP等がある。しかし、どのサイトをみても、Alibabaの様に一日3000件もの登録があると言われる利用状況には程遠いのが実情で、新規の引合登録は海外の企業のものが多い。海外のサイトでも、Alibabaの例にある様に日本ユーザーの利用は少なく、多くの日本の中小企業にとって、取引先開拓のためのネットの利用は、中国や韓国と比較しても低調であると言って差し支えないであろう。

 お隣韓国の事例はどうであろうか?
 世界で最もネットの利用が進んでいると言われる韓国では、中小企業も新規の取引先開拓のために積極的に引合い情報サイトを利用している。
 韓国には、TpageECPlazaEC21e-Traderと言った民間企業が運営する、中小企業向けの有名なEマーケットプレイスが存在する。又、民間以外の公的機関では大韓貿易投資振興公社(KOTRA)の運営するKOBO等があり、其々のサイトには毎日数百件以上の新規引合い情報の掲載がある。

 このKOTRAの運営する引合い情報サイトには、KOBOの他にSilkroad21と呼ばれるものがある。このサイトは、前出の各E-market placeサイトの引合いを横断検索することが出来る。検索した引合い情報の詳細は、各サイトの該当のページを参照するようにリンクが張られており、各Eマーケットプレイス(※1)のゲートウェイサイトとして機能しているのは注目に値する。政府系機関が運営する引合い情報サイトとしては世界でも先進的な概念を持っているもので、米国商務省ESCAPSilkroad21ベンチマーキングとして視察のためにKOTRAを訪ねた事があるとの事だ。

 これらのサイトを、実際に利用してみるとどの様になるのであろう。
 試しに、KOBOに「スポーツ用の衣料品」を「買いたい」との内容で引合い情報を登録をすると、数日の内にいくつものオファーが届くようになる。ここで興味深いのは、KOBOを見ての問い合わせもあるのだが、前出の民間サイトのユーザーからの問合せも多くあるのだ。どうしてだろうと思ってそのサイトを調べてみると、KOBOに掲載した情報がそのまま前出のサイトの幾つかにも掲載されているのだ。この事がどの様な手順で行われているかは不明だが、結果的に「買いたい」の引合いに対しては多くの問合せ・オファーを受け取ることが出来た。しかも、当初考えていた韓国の企業のみでは無く、中国の企業から多くのオファーが寄せられる事には驚かされる。
 一方で、「衣料品」を「売りたい」とのオファーに対しては、問合せの数は案外少なかった。つまり、引合いサイトを見るユーザーの多くは売り込み先を探しているのである。このためか、サイトの引合い情報の一つ一つをよくよく見ると、「買いたい」のところに、どう見ても「売りたい」内容のものを多く見掛ける。これも、売り込み情報の露出度を少しでも高めようとするユーザーの知恵なのだろう。

 少し話が脱線したが、前出のように韓国の企業・組織が運営する引合い情報サイトは、それなりに先進的な点も見受けられる。KOTRAは、最近は引き合い情報サイトだけでは飽き足らず、ブロードバンド回線を活用し、TV会議システムを利用したオンライン商談等にも実際に取り組んでいる。(写真)

 韓国のEマーケットプレイスは、日本進出の面でもAlibabaよりも取り組みが早い所もある。例えば、ECPlazaは2000年に日本法人を設立、日本語サイトをオープンして活動を続けていたが、この日本語サイトは2001年4月以降は殆ど休止状態となってしまっている。
 ECPlazaの失敗の理由は何であろう? 日本の中小企業がこれらのサイトの利用に消極的なのは、実際に契約交渉をする段になると言葉の問題が一つのハードルになる事や、ネット上での取引相手探しに慣れていない事、相手を信用できるかどうかの判断基準が分からない、と言った問題が上げられる。
 国内企業が運営する海外の調達先探しのサイトとして有名なものの一つには、インファと言う海外の工場や商品を紹介するサイトがある。このサイトの特徴としては、取引相手先を独自取材してより安心できる情報である事を前面に出している事だ。信頼できる情報である事を前面に打ち出せるかどうかも、日本国内に受け入れられる事の一つの要件かもしれない。

  Alibabaのサイトでは、信用・信認に関しての不安対策として、Alibaba Trust Passと呼ばれる認証制度を設けて、この問題解決に努めようとしている。
 しかし、この一つの制度で対中ビジネスの全てをカバーするのも難しいものだ。実際の取引の際に交渉、相手の存在、信用の見極めがオフラインでも必要であろう。
 中国では、リファウンドの概念も未だ薄く、L/Cも納品されたものが粗悪品であった場合は意味の無いものとなってしまう。貿易引合情報サイトは、あくまでも、取引相手を探す入り口の手段の一つとして活用するのが現実的であろう。


KOTRA主催オンライン商談会の様子。(2002年5月・東京)


ブロードバンド回線に接続したPC同士で、TV会議・カタログ(書込み機能付き)・チャットを用いて商談する。3つの動画があるのは、商談者2名に通訳が入るため。

 他に留意する点として、自由参加型のEマーケットプレイスに引き合い情報を登録し、Eメールアドレスを登録すると、かなりの高い確率で、国際詐欺団からの詐欺メールやその他のジャンクメールが届くようになる。ウイルスメールが届く可能性も有り、メールのウイルス対策も必須である。出来れば登録するアドレスは、普段利用しているアドレスとは別のものにしておいた方が無難だろう。

 又、もしも商品・技術の売り込み・拡販として使うのであれば、当たり前の事ではあるがホームページを開設して、こちらでも商品や技術情報を掲載しておくのがベターだ。売り込みの際に、商品の詳細はこのアドレスで、とした方がスマートだし、GoogleやYahooの検索エンジンで相手が情報を見つけ、その事が切っ掛けで販路拡大・取引成立に至る例もある(※2)。韓国の中小企業事業団が運営するKorean Marketplaceでは、韓国の中小企業向けにホームページの簡易作成、メール、日程/住所管理等のASPサービス等の他に、作成したホームページの検索エンジン一括登録等のサービスが提供されており、ビジネスチャンス拡大に向けた取り組みがなされている。

 国内では残念ながら、無料で使える同様のサービスはあまり見ないのだが、ホームページの作成、公開は比較的安価に行うことが出来るし、検索エンジンの一括登録サービスは無料で利用できるものがある。これらを活用してみるのも一つの手であろう。

 現在、日本国内のブロードバンド利用料金は、世界的に見ても一番安価な水準である。Alibabaが日本で定着するかどうかは尚今後の展開次第だが、現在の引合情報サイトの登録情報等を見ると、ネットの上を飛び交う日本企業の製品情報が少ない事は事実であろう。この世界一安価と言われる通信環境を活かして、より多くの日本企業の製品情報がネット上に流れ、今後の経済活性化に繋がる事を期待したい。


注:※1:現在、Silkroad21から引合案件の横断検索が可能なサイトは、EC21ECPlazaTpageSMIPCKOBOの各サイト(2002年9月現在)。但し、他のサイトの登録状況等から判断する限りでは、各サイトの全ての引合情報をSilkroad21で見られる様になっているかは疑問。

  ※2:「日経ネットビジネス」2002年3月号 P38 〜 Webページに英語で自社の持つ技術情報を掲載したところ、検索サイトで探し当てた海外の企業から6000万円を超える受注を受けた、山城精機製作所の事例等。 

【関連記事】
貴方のMail Boxにも?〜国際詐欺団からの招待状

【参考リンク】
eマーケットプレイスで調達コスト削減(NETdeBIZ)
貿易とインターネット(「輸入ビジネスセミナー」レジュメ)
中小企業のための取引情報リンク
TTPP (JETROが運営する引合情報サイト)
中国のeマーケットプレイス一覧

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草場 歩 (感想等はこちらへ) 2002.10.19.

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