〜WORLDNAVIコラム〜

ひとつの「台湾」問題

 ワールドナビ・ネットを開いてから数日後、駐日台北経済文化代表処新聞広報部より、一通のメールが届いた。
 「台湾は現在一つの主権独立の国家として28ヶ国と国交を樹立しています。ですから、貴ホームページの中に、我が国を中国の範囲内に入れていることは我が国にとっては受け入れられないことです。この括弧かっこ(台湾)を取り消していただけない場合は当台北経済文化代表処とページリンクすることは同意致しかねます。」

 メールには担当者の名も添えられて無く、ビジネスマナー上はこれで良いのかなと残念に思ったが、同時にこの事は台湾と中国、そして日本との関係について考えさせられる切っ掛けとなった。

 指摘を頂いた括弧付け表記のページは、当方サイトの「国別リンク集」のページである。
 このページは外務省の「各国・地域別情報」のページ等を参考に、日本と国交がある、又は日本が国家承認をしていると当方で判断した国を括弧無しで、日本の国家承認等には至っていないが高い独自性を持つ地域を括弧付けで表記している。
 指摘を受けた当時は、この括弧付けの表記が「中国」の下に来ていた為に、先方では中国の範囲内と解釈された様だ。この時点でも側に書いてあった「香港」「マカオ」はフォントサイズを「台湾」よりは小さく、一字下げの表記で「台湾」とは区別をしていたが、見方によっては「香港」等と同じ表記との誤解もあり得たため、国名の表示位置の「北朝鮮」と「台湾」の位置を交換し、香港・マカオの表記を丸括弧から角括弧に変更、より違いを明確にした上で、次の内容でメールの返答を出した。

 1)括弧付けの表記は、日本との正式な国交(又は国家承認)の有無に基づくものとなる様に努めている。
 2)完全に中国の範囲内と誤解を受ける表記であったことはこれをお詫びし、表記の修正を実施。
 3)担当者の名前すら記載されていないメールであった事は残念。
 4)貴新聞広報部から頂いたメールの内容は、貴処の意見を代表する意見として当方では解釈。頂いたメールの内容を今後一般に公開する可能性がある旨、ご承知置き頂きたい。

 残念ながら上記のメール内容に対しての返答は頂いて無いが、この数日後の7月21日、台湾の陳水扁総統は民主進歩党(民進党)大会で、「中国が台湾の善意に反応しないのなら台湾は自分の道を行く」と発言、8月3日に東京で開催された海外在住の台湾人の集まり、世界台湾同郷会総会にインターネットを通じ参加・演説し、その中で「台湾と中国はそれぞれが一つの国(『一辺一国』)」であるとして、独立の是非を問う住民投票の重要性を強調した。

 これらの独立を求める台湾の動きに対して、中国当局は一斉に反発、8月4日の新華社通信は、陳水扁台湾総統の発言に対し、台湾や香港で批判が相次いでいると伝えた。この事は報道を通じて中国政府が陳総統発言に強く反発していることを示したものだ。中国国務省新聞弁公室運営のサイトにもこの陳総統発言を批判する記事が掲載されている。

 中国側の批判・反論の要点の一つは、これら台湾独立への動きが陳水扁総統を始めとする一部の独立派の画策で、一般の民意や台湾の人々の願いを反映したものでは無い、としている事である。その後の中国の反発を受けて、台湾当局でも、この事は明確に独立を求めるものでは無い、として火消しに努める発言も見られる。
 然し、陳水扁総統だけでは無く、一国の政府を代表する機関の広報部も独立を明確に主張している事は、台湾国内・政府内の独立への強い意志が有り、これらの事を過小評価して看過する様な問題でも無い事を示していよう。中国寄りの台湾紙、聯合報の世論調査でも、「一辺一国」の発言は半数の人は同意・支持していると言う。少数の・一部の人のみが独立を望んでいるだけだと事を片付けるもの無理があるだろう。


 中国当局はこれまで、「一つの中国」を外交の大前提に掲げ、台湾の独立問題を中国の内政問題だとして、外国の干渉を極端に嫌っている。中国の範囲内が独立したり外国の勢力下に置かれてしまう事は、先の大戦前に諸外国に多くの租借地を作られて、国の不利益になったとの苦い経験を起想するからだと言う。この事は、アメリカの台湾問題に対しての牽制の意味合いもあるだろう。

 これらの中国の強力な働きかけにより、台湾(中華民国)は、1971年迄は国連の常任理事国であった台湾は、1972年の日中国交正常化により日本と断交、アメリカも台湾との関係を定めたアメリカ「国内法」である台湾関係法の成立を待ち、1978年にはアメリカとも断交、10年前には韓国とも断交されてしまった。

台湾関係略表
1971年 中華民国、国際連合から脱退(中華人民共和国加入)
1972年9月 日中国交樹立・日台断交
1978年1月 米中国交樹立・米台断交
1992年8月 韓国と中国国交樹立、台湾と韓国の国交を断絶

 今年7月にも太平洋に浮かぶ伊豆大島の約1/4の島、ナウルと台湾との断交が話題になった。駐日台北経済文化代表処のサイトには、この断交に関して中国の金銭外交を非難する台湾の外交部長の声明が掲載されている。

 これらの記事を見て強く感じるのは、国の外交的な決定の多くは実利優先で、理念よりは実利→国益→国策と建前が形成されてしまうと言う事である。

 さて、日本を振り返ってみると、これまでは周辺国に比較して秀でた経済力を背景に、外交を形成する事が出来た。然し、巨額の財政赤字等を原因として、経済力の後ろ盾が無くなってしまった時に実利優先の国際社会でどの様な外交を展開して行く事が出来るのか、今後が気掛かりでもある。

 

参考資料: 中国・台湾関係報道記事
        ビジネスマナー・メールのマナーについて


草場 歩(感想等はこちらへ) 2002.08.21

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