日韓で初の大規模な共催国際イベントとなった2002年FIFA WORLD CUP。閉会式後の日韓首脳会談では、W杯共催の成功を祝う共同メッセージを発表、W杯の開催は大成功を収め、更には日韓関係の前進に向け大きなステップになったと報道されている。 このW杯を開催していた一ヵ月間は、筆者にとって韓国に対する見方、更には日本のマスコミのあり方とインターネットの持つ情報伝達・世論形成力についても様々な事を考えさせられた。W杯の共催が我々に残したものはどの様なものだったのであろうか? この一ヵ月間に体験・見聞きした事を基に振り返ってみたい。 W杯開催期間中、たまたま韓国・ソウルを訪問する機会があった。 今回の出張は仕事の出張で行ったもので、W杯の試合を生で見る事は残念ながら無かったが、街中を歩くだけでW杯の熱気、盛り上がりを肌で感じる事が出来た。 街中を歩くと、至るところにWORLD CUPの文字、開催国の国旗、サッカーボールの絵を目にする。公式スポンサーでなくとも、サッカーボールをモチーフにした看板を掲げ、W杯開催記念と書くのはもはや当たり前である。 ソウルに入ったのは6月9日。翌日、10日は韓国−米国戦があったが、午後は会社勤めの人も皆観戦で盛り上がってしまうので、殆ど仕事にならなかった。かくいう私も、現地駐在所のスタッフとTVに見入っていたのだが。駐在所から歩いて5分程の所に市庁があり、途中で抜け出して見に行くと、土砂降りの雨の中、何万人もの市民が大型スクリーンを見ながら試合を応援していた。まだ予選でのひとコマであったが、韓国でのW杯に対しての国中での盛り上がりを肌で感じ取れた。 現地で仕事の打合せをする際も、必ずW杯の事が話題になった。日本がロシアに勝った試合の直後で、私と接する韓国人は皆、日本チームへの賛辞を口にし、決勝戦で日韓が対戦できればとの冗談で盛り上がったものだ。 一方で、日本とベルギーの試合の時、日本が点を取られた際に、学生達がかなり盛り上がっていたとの話も現地で聞かれた。最近でも「日本人」だからとタクシーの乗車拒否があったと言われる国である。反日感情を持った人がいるのは事実だし、ベルギーのサポーターもいるだろう。残念だけど仕方が無いと、その時はあまり気に留めなかった。 6月13日に日本に戻って翌日、仕事に戻ると、会社では日本対ポーランド戦を観る場合は有給の申請を出すように(勿論、業務に支障の無い範囲で)、との通達が社内で流されていた。業務を休みにして全社で応援しているのが当たり前の韓国では、こんな通達は出せないなと、両国の国民性の違いを感じつつも、この時点では今回のW杯共催が日韓関係にとって悪い影響を残すものとは考えられなかった。 日本が決勝トーナメント進出を決めた翌日、韓国はポルトガルに1-0で勝ち、決勝トーナメントに進出。4日前、ポーランドに4-0で快勝したポルトガルにとって痛手だったのは、ポルトガルの選手二人がレッドカードで退場になった事だ。レッドカード2枚は素人目にも多いなと思ったが、この時は「開催国は決勝トーナメントに行く」というW杯のジンクスは破られなかったのだなとのありきたりの感想であった。 しかし、その翌週、韓国のサッカーに対する世界の見方、強いては韓国そのものに対する見方も変化をみせる様になってしまった。 一つ目は翌週火曜日のイタリア戦である。その前日、スタンドに「AGAIN 1966」の人文字が準備されていたのを知って、イタリアの記者、サッカー協会の怒りを買う事となった。 しかし、イタリアに燻る火種を更に大きくしたのが、韓国よりの判定が多く出た事が一因となって、優勝候補の一つと呼ばれていたイタリアチームが韓国に敗れた事であった。 この事にイタリア国民の多くが怒り、イタリア国営放送はFIFAに賠償請求を検討、FIFAには40万通の抗議の電子メールが寄せられたと報道されている。 「誤審があっても、それに対してくじけない気迫が、イタリアにはなかったんだ。」 と、あるイタリア人は書いている。誤審の助けがあったとしても、ある程度の力が無くてはサッカーの真剣勝負で勝てない。好意的に見れば、時にはイタリアにも勝てるだけの力を韓国も(数年前、日本もオリンピックでブラジルに勝った事があったが)持てたのだとも言えよう。 しかし、このイタリア人の見方も、次のスペイン戦で一転する事となる。 その週の土曜日、韓国チームはスペインチームをPKの末に破って、順々決勝にコマを進めた。そして、この日の試合では、FIFA会長ですら、「明らかに誤審と言えるシーンが2度あった」とコメントする程で、韓国よりの判定に対する疑問は新華社電でも伝えられた程だ。(このため、中国では韓国の学生に対する非難も持ち上がり、韓国政府が中国に対して公式抗議文を出している。) 私も、これらの試合には疑問を持たざるを得なかった。更に個人的なわだかまりを大きくしてしまったのが、誤審疑惑には殆ど触れず、韓国チームの事を賞賛し続ける日本のマスコミの報道内容であった。在日韓国人の学生ですら疑問・嫌気を書かざるを得ない程の状況の中で、一体どうなってしまっているのであろう。 マスコミから流れるニュースだけでは納得が行かなかった私は、インターネット上でWORLD CUP関連の掲示板を探して読んでみた。そこで目にしたのは、山のような誤審批判のメッセージであり、立て続けの誤審の影には陰謀がありと、様々な方が書く興味深い分析、記述だった。 この中には、韓国に対する感傷的な批判も多く書かれていたが、W杯の呼称問題以降、昨今の誤審騒動のために今回のW杯共催にわだかまりが強まっていた筆者にとって、多くは共感を覚えるものもあった。 W杯の韓国関連の掲示板は、Yahooにあるものだけで数十以上のトピック(スレッド)があったが、その中には一日の投稿数が数千件を超えるものもあった。勿論、私の様に何も投稿しないで内容を読むだけの者もいるので、数万人以上の人がこれらの記事を読んでいた筈だ。これらの投稿を読む中で、韓国に対する見方が変わった人も少なく無いであろう。投稿の中には、私と同様に日本のマスコミ報道に嫌気が差し、ここ(掲示板)に来てはじめて共感する意見に出会えた、と描いている人も少なくなかった。 |